「凶悪」


あなたは人を殺そうと思ったことがあるだろうか?
私にはある。

人間、長く生きていればいろいろなことに出くわすものだ。
よいこと悪いこと、面白いことツマらないこと、嬉しいこと哀しいこと、多種多様である。人により時代により内容や度合いは変わるが、本当に様々な出来事が起こるのだ。ただ、よいことだけであれば、まったく喜ばしい限りだが、反対のこともそれ以上に多いのだ。その場だけでガマンできる程度のことであればよいが、金銭や自分の立場が絡んで来たりすると、もうタマらない。

………アイツさえいなければ
………ちょっとヤっちゃうかな

などと、思考がアタマをよぎったり。50歳代となった現在でもしょっちゅう考えている。まことに恐ろしいことだ。そうはいっても考えるだけ、実際に行動に移すことはない。だってそんな、おっそろしいこと出来るわけがない。それが、ごく普通の人間が、ノーマルに持ち得る根本的な思考であると思う。

ところが、その根本の部分を揺さぶらされた映画と出会った。

『凶悪』2013年 日活
監督:白石和彌
出演:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー



ある雑誌編集者 藤井(山田孝之)の元に、一通の手紙が届く。その手紙は小菅の東京拘置所に収監されている、死刑判決を受けている元暴力団幹部 須藤から送られたものだった。
強盗、傷害、放火そして複数の人間を殺害した罪で裁きを受けた彼(ピエール瀧)が語った余罪の数々。行方不明となっている不動産業者はじつは殺害されていた。身寄りのない老人を、まったく別人にでっち上げ、不動産詐欺を行った後で生き埋めにしてしまう。そして、保険金殺人事件。その背後には『先生』と呼ばれる男(リリー・フランキー)がいた……。
原作は〈新潮45〉のスクープ記事を元に執筆されたルポルタージュ。実際の事件を描いたものだけあって、すさまじい迫力のある作品だったが、映画はもう一歩も二歩も踏み込んだ「凶悪」な世界が描かれる。
薄ら笑いを浮かべながら、人の生命を金に変えてゆく先生。無造作に人を傷つけ、殺害する須藤の主人公二人はもとより、夫を、父を見殺しにする家族。『不動産ブローカーがヤクザと組んで、人を殺しても記事にならない』と言い放つ編集長。そして、事件に没頭するあまり、家庭を崩壊させてゆく藤井………。
『凶悪な魔性など誰にでもある』
という強烈なメッセージに、一人慄然とさせられた、ひと晩であった。




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