「池波正太郎の銀座日記」より名文集


"私がロイド・ノーランを初めて観たのは、まだ少年のころで、ジェームズ・キャグニー主演の「Gメン」の端役に出ていたのを観て、子供ごころにも
(これは、きっと、いい役者になる)
と、おもった。果たして、彼はキング・ヴィダー監督の「テキサス決死隊」の仇で、一躍、名をあげたのだった……と、こんなことを書いてみても、ひとりよがりになるだけだろう。もう、やめよう。"
フィリップ・ノワレが、パリのある警察署の刑事になって主演する。賄賂、ピンハネ、モミ消しなど、職権を利用した悪徳?を重ねながら生きて行く、こよ初老刑事の肥った躰からただようペーソスとユーモアが何ともいえぬ、よい味だった。
午後から来客二組。御飯を食べすぎたので、私は菓子をひかえていたら、客のひとりが、
「おかげんが悪いのですか?」
と、いう。
齢をとると何かにつけて、人が心配してくれるものだ。
夜のテレビで、片岡孝夫・坂東玉三郎共演の「四谷怪談」を観る。要領よくダイジェストしてあったが、玉三郎初役のお岩は、あまり大評判にはならなかったようだ。しかし、初役で、この難役をこれだけこなしたのは一つ新響だとおもう。
気魄がこもっていて、そらぞらしくなく、若い役者だけに髪すき前後の演技にもテムポを出し、おもいきって演じたのがよかった。
歌舞伎は、もっともっと変貌すべきなのだ。
「煉瓦亭」へ入り、ハイボール二杯、ポーク・カツレツに御飯。私には何といっても、この店のカツレツが、いちばんうまい。
とんかつだのカツレツだのはそれぞれにルーツがあって、
「それは、ぬきさしならないものです」
いつか、私の友人がそういったことがある。そうかもしれない。
“今朝は部屋で、トースト、ボイルド・エッグ、トマト・ジュース。それにポットのコーヒーをたっぷりのんでから帰宅する。ここのホテル「山の上ホテル」はルーム・サーヴィスの朝食にしても念を入れてととのえてくれる。"
“夕飯は、焼豆腐の煮たのとワサビの茎と、鯛の刺身で冷酒一合半。
飯は、半分残した鯛の刺身で即席の鯛茶漬にする。鯛の漬汁は、卓上の酒、味の素、ワサビ、ミリンなどで、自分が適当にする。"
「迷走地図」を観る。深味はないが、野村監督のテムポ快調。それに久しぶりの勝新太郎の政治ボス。すばらしいマスクだ。演技もこの役なら破綻はない。
 


池波正太郎の銀座日記(全) (新潮文庫)



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