【映画days】裸の島


中学生の時代から心酔し、いまだにフォローしている作家が2人いる。第一は筒井康隆、第二は小林信彦。





ただ、筒井は近年あまりにも、あんまりな存在になってしまった(あくまでも、私はが感じているだけだが)ので、実質的なおつきあいは小林信彦先生のみといえる。その小林に『青春の読書』という、短いエッセイがある。


ある時、NHKで読書を語る、という番組に出演した時に、若いプロデューサー、ディレクター、アナウンサーたちからトーマス・マン『トニオ・クレーゲル』を知らないといわる。
『現代には〈青春の読書〉というものはないのですか?』
と、スタッフたちに問いかける小林先生。という内容だった。
〈青春の読書〉とは、ピュアな十代の少年少女が、深く読みふけり、熱く語りあい、愛憎を人間をそして人生を悟る。言わば通過儀礼のようなものであると。具体的にはゲーテであったり、ヘルマン・ヘッセだったり。少し新しいところではアラン・シリトーだったりするわけだ。活字離れが問題視されている昨今ではあるが、NHKの、しかも読書番組のスタッフが知らないというのは、やはり只事ではない。という内容だったと思う。

………とかなんとか言いつつ、これ書いてる私はトーマス・マンは『ブッデンブローク家のひとびと』を10ページ。『魔の山』は目次だけ。『トニオ・クレーゲル』など手に取ったこともない。

『若きウェルテルの悩み』は手塚治虫『火の鳥 未来編』でしか接したことがない。『長距離ランナーの孤独』はラスト三行を読んだきり(一番カッコいいところだが)という体たらく。ま、翻訳物は苦手なので仕方ないのだが。

そんな私にも〈青春の読書〉的な書が何冊かある。例えば


エドモン・ロスタン『シラノ・ド・ベルジュラック』


シラノ・ド・ベルジュラック (岩波文庫)

のっけから翻訳物で戯曲である。
高校2年の時、隣町に文学座でこれの公演を観に行った、江守徹、大出俊の主演の舞台で大感銘をうけたのだ。原作本が岩波文庫にあると聞き、直ちに購入。戦前の読みづらい旧字旧仮名遣いもなんのその、あまりの面白さに引き込まれ一気に読んだのを覚えている。
学問も、文学も、剣も超一流であるが、異様な容姿のために女性から忌避され続ける不幸な男が主人公。そのシラノが、ひょんなことから、親友クリスチャンと幼馴染で初恋の相手であるロクサーヌを結びつける役を買って出ることに。そこから起こる喜劇悲劇の数々。
純であることの大切さ、純でありすぎることのバカらしさ。アタマを殴りつけられたような衝撃を受けた気がした。ちなみにポリスの『ロクサーヌ』はこの戯曲から想を得たものらしい。遠藤周作の同名短編も見事な作品だ。


二つ目は
北杜夫『ドクトルマンボウ青春記』


どくとるマンボウ青春記 (中公文庫)

青春時代に青春記を愛でるとは、あまりにもベタなことで恥ずかしいのだが。
北杜夫も、自分と同年代のころはこんなバカなことをやっていたんだな。と、妙なところに感心したり。そして一番は、父親である斎藤茂吉を受け入れる箇所。とてつもなく怖いだけの存在であった父親と、文学者のである父親。同一人物でありながら、そのギャップのために長い間、受け入れることができない。しかし、自らが文学を志向するにつれ、徐々にではあるが偉大な人物として、認めることが出来て行く。その過程がなんとも言えず素晴らしい。
当時、わが家にいろいろあり、両親も、長兄も次兄も、もちろん自分も辛い時代だった。北杜夫の姿に自らを投影して、『あぁ、オレも許してあげないとなぁ』と、思えた時は本当にホッと出来たものた。


そして三つ目
新藤兼人『映画つくりの実際』



なんとなく、
「映画監督になりたい」
と思っていた男子高校生を奈落のそこに突き落としてくれた名著である。
気鋭の映画作家の著者が、映画の構造、シナリオの書き方、映画の作り方を自ら製作した作品をベースに書き尽くされている。
その中で取り上げられている二作品。一昨目は『鬼婆』そして二作目が今回ご紹介する映画だ。


『裸の島』1960年
監督:新藤兼人
出演:殿山泰司、乙羽信子
瀬戸内に浮かぶ名もない小さな島。そこに住む四人の家族が主人公。父(殿山泰司)、母(乙羽信子)は百姓をしているが、この島には水がないため、一日に何度も何度も内地へ水汲みに出かける。健気に両親を手伝う二人の息子たちに生活が、細やかに描かれる。



ことさら取り立ててストーリーがないこの作品には、徹頭徹尾セリフがない。風雨や波、子供たちの歌声など効果音はあるが、主体的なセリフは一切ない。新藤兼人曰く『わが生涯、最大の実験作』。セリフによる説明は切り捨て、純粋に演出と演技力だけで描き尽くされる超個性的な世界。殿山泰司目の色、乙羽信子の慟哭、そして冷徹でありながら、見事な人間賛歌を作り上げた新藤兼人監督に、ただただ圧倒される作品だ。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です