幕末太陽傳②


そして、私はというと、ラジオさんの姿、立居振る舞いを見て
『目が見えないって、どんな感じなんだろ?』
などと、ボーっと考えているような子どもだった。まぶたをギュッと閉じると、景色は見えなくなるが、まぶたごしに光源がわかるので、あんな感じなのかな? と、ラジオさんの行く先々の電灯を点け歩いたりしたものだ。ある時、ラジオさんがそれに気づいて
『 お前、電気点けて歩いてないか?』
『点けてるよ』
『バカだな。メクラ(差別用語に非ず) に電気はいらないよ』
言葉に詰まった私が
『でも、見えるようになるかもしれないじゃないか』
と、つい言ってしまった時のラジオさんの、苦笑まじりの、バカにしたような、でもなんとも言え
ない嬉しそうな表情が忘れられない。

そういか、素直といえば聞こえはよいが、ピュアで薄バカな私を、ラジオさんはずいぶん可愛がってくれていたものと思う。

一度、アンマを教えてくれ。といったら、本気で仕込もうとしてくれたりした。肩甲骨と第何肋骨のなんとかの間を。などと細かく何度も何度もレクチャーしたりと、私のことを後継者にでもしよう考えたのであろうか。

ある時、……もう中学生になっていたろうか。ラジオさんから
『落語のテープを買ってきてくれ』
と一万円札 1 枚渡されたことがある。
その少し前に、父が三遊亭金馬(三代目) のテープを買い与えていたので、その続きが聴きたいということだった。お釣りはやるから、と言われてウキウキしながら買ってきた10数本のテープが世界を大きく広げてくれたと思う。
古今亭志ん生の「粗忽長屋」でべらんめえ調を知った驚き。滑舌が悪すぎて聴き取り辛いが、逆にそれでこそ面白味が増す春風亭柳喬の「粗忽の釘」「時そば」。乱暴者の侍と職人のリアルな決闘が語られる「たがや」は馬生だったか。
『アイダケッタロー』が何度も何度も何度も繰り返されるだけで面白くなってしまう柳家金語楼の「兵隊落語」。金語楼師匠の全盛期を知らない、という事がものすごく損をしている気がしてならない。

 

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