幕末太陽傳③


そして、もっとも聴き込んだのが三代目三遊亭金馬である。じつは「滑舌」という言葉を覚えたのはこの方からだった。それほど聴き取りやすい落語だった。
居酒屋の丁稚が酔っ払いをからかううちに、逆にやり込められてしまう「居酒屋」。大好きなサンマととんでもない再会を果たすお殿様を描いた「目黒のさんま」。行儀見習いで丁稚に出した娘の一時帰宅をめぐって泣き笑いする「薮入り」。そして物売りの口上が面白すぎる「孝行糖」は、「三代目三遊亭金馬全集」(という本があったのだ)を買ってきて、まくらからオチまで記憶してしまったほどだ。口上だけなら現在でも言える。

そんな、豊穣な世界と出会えたのもあのカセットテープあってこそ。ラジオさんがいてくれてこそ、のものであった。
いつものことながら、長々と恐縮である。ようやくここからが本題だ。

『幕末太陽傳』1957 年 日本
監督:川島雄三
脚本:田中啓一、川島雄三、今村昌平
出演:フランキー堺、左幸子、南田洋子、小沢昭一、石原裕次郎、小林旭

幕末文久年間の品川宿が舞台。ペリー来航以来、薩長の浪人どもが跋扈しつつある時代のこと。品
川一の旅籠 相模屋に図々しく居続ける佐平次(フランキー堺) を中心に、女郎おそめ(左幸子) とこ
はる(南田洋子) と金造(小沢昭一) の恋の鞘当てや、高杉晋作(石原裕次郎) 久坂玄瑞(小林旭) ら勤皇の志士たちの暗躍など、上を下への大騒動が巻き起こる。
『居残り佐平次』『品川心中』など、古典落語をアレンジして練り上げられたシナリオ(若き日の今村昌平が参加) がとてつもなくウマい。
そして、なにはさておきフランキー堺の絶妙なのである。コミカルなだけでなく、画面の隅から隅まで飛び回り走り回る。時に軽妙に、時にダイナミックに、そして、時に見せるスゴみのある目つきには背筋がゾッとさせられる。
二十代の、ジャズドラマーから転身したばかりの新人俳優にはとても見えない。

どちらが本題なのか?
ただ『幕末太陽傳』というと落語を思い出し、落語といえばラジオさんを思い出すのだ。そんな、一体構造になってしまっているので仕方がない。
そのラジオさんも、私が中学三年生の夏にヒョイっと。本当にヒョイっという感じで亡くなってしまった。わずか50 年たらずの生涯だった。

幸不幸は本人の感覚だからわからない。ただ、その後のわが家の変転を見ることなく逝けた。そ
れだけは、彼にとっても、両親にとっても幸せなことだったのかもしれない。
『幕末太陽傳』のタイトルが目に入るたびに、ああ、もう 10 年早く生まれていれば、もう少し役に立てたのにな。そんな切ない想いをさせられる作品でもあるのだ。

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