石川県鳳珠群「春蘭の宿」生かして活かして

石川県

店名 春蘭の宿
場所 石川県鳳珠郡能登町宮地16-9 [地図はこちら]
電話 0768-67-2541
ジャンル 農家民宿
バリアフリー △ 入口に段差あり
駐車場 あり

私は建築を職業としている

よそ様の家を建てたり直したりするのが生業だ。住まいが古くなったから、故障したから壊れたから、使い勝手が悪くなったから修理や補修をするが、場合によっては壊して新しく造り直す事もある。費用対効果で修理するよりも新しくしてしまった方が安くつく場合があるからだ。新しい工法や設備機器を用いた方が使い勝手がよくなる、という事情があったりもする。

Scrap & Build

古きを壊し、新しく造り直すことはかような背景をもとに提案しやすく、実現されやすい手法だ。まことに罪深く感ずる事があるのだが、ある程度は致し方のない事であると思いながら日々を過ごしている。

壊してしまったものは当然元に戻す事は出来ない

同じ形状、ボリュームとして再現することは可能だが、存在そのものを復元することは不可能だ。先人たちが多くの労苦の末に作り上げたものをたかが経済的な理由でなくしてしまう。罪深いとはそのことを指す。

「よい街並み」とは

そこに建つ家々が揃い、素材が揃い、色が整っているから外から観るととても美しく映ることを指す。これはその地域の産業規模によって、住まう人々の職業、階層、世代、生活様式などが似てくる事から家屋のサイズも同程度になってくる。また、輸送手段が乏しい時代に、外壁材や屋根材といった大きな重量を持つ素材は、直近の地域から調達される事となり、結果として大きさも形状も色彩も揃った美しい光景が出来上がり、地域文化そのものを決定づけるという事となる。

したがって建築物は古ければ古いほど、その地域文化に寄与している、あるいはその可能性があるという事となる。だからいくら古くなったからといって、コストが上がるからといってやたら迂闊に壊してよいものではないのだ。まことに罪深い。

石川県のおよそ1/3を構成する能登半島は

大きく分けて三の地域に分類される。半島の根本から北部に向けて羽昨市、羽昨郡あたりを「口能登」、鹿島郡、七尾市あたりを「中能登」、鳳珠郡穴水町から北側を「奧能登」と呼ばれている。行政区分ではないが、長野県でいうところの北信、中信、南信のようなものか。

今回お邪魔したのは

その奧能登のど真ん中。鳳珠郡能登町という山深い地だ。林業で栄えたというだけあって、美しく整備された山林が見事に映えている。しかし、それは「かつて」の事。ここを行き交った多くの人々はいずこへかと去り、過疎への道を進むこととなる。

「春蘭の里」

能登町宮地という地域に50ほどの世帯で構成された集落がある。今から25年ほど前に、過疎どころか限界集落化しつつある地域を少しでも活性化するべく活動が始められたという。そして様々な失敗と試行錯誤の末にたどり着いたのが『農家民宿』という手法だ。『農家民宿』とは、農林水産省が提唱する「グリーンツーリズム」により指定された施設のことだ。

「春蘭の里」は

地域のほぼまるごとで農家民宿に取り組まれている。既存の各戸に分散して宿泊させ、そこに住む戸主自身がもてなし調理し、農業体験を行うといったシステムである事だ。これならわずかな改修(衛生、調理施設など)を施すだけで済む。行政の補助は使えるから負担も少ない。そしてなにより利益分配に不平等がないという利点がある。まさに画期的なシステムだ。

今回は

春蘭の里実行委員会の委員長である多田喜一郎さんにお話しを伺う事ができた。多田さんは輸送業や建設業の会社を経営される実業家で、以前は町会議員も務められ、ご自身も農家民宿を運営されるパワフルな方だ。仲間を募り、行政を説き伏せ補助金を引き出し、利用客を様々なところから誘致する。一般の方だけではなく、修学旅行や海外からの観光客まで、年間平均で15000名もの利用があるというのだから凄まじいスケールだ。2020年度はコロナの影響で誘致出来なかったが、その代わり感染対策に時間を割き、すでに来年度の予約もいくつか決まっているという。

ご案内いただいた数々の施設はのちにレポートする

ひと通り観せて頂いたあとは多田さんが運営される「春蘭の宿」へ。ご自身の自宅でもあるこちらも次回レポートとして、ひと休みの後入浴、夕食となった。春蘭の里は実行委員会の管理の基にあり、細かな運営は各戸に任されているとの事だが、食事だけはあるコンセプトに基づいたメニューであるという。それは地元で収穫された野菜や山菜、キノコや魚などにこだわり、ここでしか食べられないものが登場する。

「一の膳」

6種の惣菜で構成される。

白菜の漬物菜の花のおひたしはその場で収穫してきた、土の香りが漂ってくるようだ。

生の大根やニンジンと共に供されるきのこの刺身は純朴な味わいといったところ。というか、きのこって生で食べられるのか。

粉をふかせたジャガイモは見た目こそ粉ふき芋だが、カラシを効かせピリ辛に仕立ててある。美味なるかな美味なるかな

きのこと大根おろしのなますは酸味がバッチリ効いていてよろしい。美味い美味い美味い、丼でおかわりください。

次なる椀は野菜ときのこの炊き合わせだ。菜の花、にんじん、ふき、わらび、きのこ、たけのこを薄味で仕立てられている。言うまでもないが野菜の味わいが濃い。たけのこがフルシーズンであれば凄まじいまでの存在感を放つであろう。

ちなみに先から「きのこ」と表記しているが、その場で◯◯タケと名前を教えていただいたが、メモを取る事が出来ずすべて失念。ごめんなさい

夕食はまだ続くが、長くなり好ぎたのでひと休み。次回へのお楽しみ。

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