店名 キッチンハウス ミックス
場所 長野県長野市安茂里伊勢宮7726-10
バリアフリー △ 入口に段差あり
駐車場 あり
やらかした
やらかしてしまった。なにを?などとヤボなことをきいてはならぬ。人の過ちに対して、その中身をしつこく問うなど、趣きに欠ける。こちらとしても、そうおいそれとプライバシーを侵害してもらうわけにはいかぬし、軽々に喋るほどの話でもない。けれど、それを理由に話を打ち切ってしまっては、それはそれで面白くない。せっかくの機会だ、話してしまおう
スピード違反で捕まった
ある日、ある時、長野県の某所を、心地よい気分で車を走らせていた。高速道路を滑るように進む。天気も良く、車も少ない。これぞ理想のドライブという時間だった。その背後から、ぴかりん!と紅く点滅する灯り。ああ、コレはオレだよな、と直感的に理解する。「まさか」と「やはり」の狭間で、一拍の間。左車線に移り、スピードを落とせば、ほどなく前方に回り込む車両。電光表示に「指示に従ってください」。これは夢ではない。近くのサービスエリアに誘導され、そのまま御用
それにしても
近年の警察官というのは、妙に丁寧だ。びっくりするほどの丁寧語で、まるで老舗旅館の仲居のように話しかけてくる
「お止めして申し訳ございません」
「時速○○kmオーバーでした」
「反則金を納めていただくだけで終わりますので、ご安心ください」
なんだか、こちらが申し訳なくなってくるほどの物腰の柔らかさ。昔の警官はもっと荒々しかった。40年ほど前、若気の至りでちょっとした違反をしたときなど
「お前らふざけたことしてると逮捕するぞ!」
と怒鳴られたものだ。あの迫力に比べれば、今のおまわりさんは仏のようである
だからといって反則金が免除されるわけでもない
今回の件で、18,000円を納めることになった。やれやれ、と思いながら、それでも怒鳴られずに済んだだけマシなのか。いや、金額を考えれば、もう少し凄んでくれてもよかったのではないか、と妙な考えも浮かぶ
すったもんだの処理を終え
気がつけば昼時。いろいろあった。頭も疲れたし、気持ちもぐったりだが、何より腹が減った。こういう時こそ、肉だ。肉を喰らうべし。そう思って向かったのがこちら
「キッチンハウス ミックス」
長野市の安茂里伊勢宮、といっても、わかりやすく言えば、西友伊勢宮店の斜向かいにある小さな定食屋だ
この店を知ったのは
1年ほど前。長野にはずいぶん長くいるのに、ここにこんな店があるとは知らなかった。通りが鋭角に交わる地点にあるせいで、存在に気づきづらい。駐車場も数台分と限られているが、それでも通う価値のある店だ。なぜなら、ここは、しっかりと美味いものを食わせてくれるから
店に入り、メニューを見渡せば
定食、丼、チャーハンまさに昔ながらの町の定食屋という佇まい。ご主人と奥様の二人で切り盛りしているのも、いかにもな温かさがある。注文したのは、前回と同じ
「カツ定食(300g)」1400円
この店に最初に訪れたのも、このメニューの存在を聞きつけたからだった。そして、期待を裏切らなかった。厚くてデカい。とんかつは、こうでなければいけないのだ。世の中には「厚さ6ミリが限界」などという主張をする人もいるが、それはあくまで個人の感想であって、こちらとしてはナンセンスとしか思えない。薄いとんかつを丁寧に噛みしめるなど、粋がられても困る
とんかつは
がしがしと噛み砕き、わしわしと飲み下すもの。品があるとかないとか、そんな議論の対象外。肉を食らう喜びの根源にある料理、それがとんかつ。そう思っている。その点、この300gとんかつは素晴らしい。皿いっぱいに広がる縦横のボリューム、厚みのあるフォルム、噛みごたえのある赤身、ぷりぷりとした脂身、そのハーモニーにただただ唸るばかり。こんなものを昼に食えるというだけで、幸福感が全身にみなぎる
この店のいいところは
控えめな外観にもかかわらず、こうした豪快なメニューがちゃんと存在していることだ。目立つ看板や派手な広告に頼らず、地元に根ざした食事を提供し、質で勝負している姿勢が潔い
スピード違反の鬱屈が完全に吹き飛んだ
とは言わない。18,000円という金額は、ちょっとやそっとのことで帳消しになるものではない。だが、肉を食い終わった後、たしかに心は少し軽くなっていた。腹が満ちれば、心も和らぐ。これが人間の単純で、しかし確かな仕組みというやつだ
あらためて思う
スピード違反をしたのは自分。違反をすれば、罰を受ける。それは当然だし潔く受け入れるべきだ。おまわりさんの対応が過剰なほど丁寧だったのも、今となっては少しありがたい気もする。お金はなくなったが、礼儀は得た。そんなふうに、無理やり納得しておこう
それにしても
とんかつ300gはやはり偉大だった。また何かやらかしたときには、いや、やらかさずとも、日常の中で煮詰まったら、またここに来て、このカツを喰らおう。大きな肉を前にした時、人は過去の失敗を許せる気がしてくるのだから
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