長野市「焼肉乃上」黙々と

地域

店名 焼肉乃上
場所 長野県長野市北石堂町1185-10 カザマビル 1F
電話 026-262-1860
ジャンル 焼肉店
バリアフリー ◯ 店内に一部段差あり
駐車場 なし

基本的におしゃべりな方だ

といっても呼吸していないのではないか、というほどのおしゃべりでもない、叱られているときペラペラやるヤツがいるがさほどでもない。興がのるとあははおほほと明るく楽しく、しばらく会話の次穂がなくなる程度の、ほどほどのおしゃべりといったものだから、まぁ可愛いものだ。

「男は寡黙に、少し無口なくらいがいいんだよ」

とはずいぶん言われたものだ。三船敏郎や高倉健のように怖い顔して立っている方が格好がつくし、余計なことを言わない方が叱られたりトラブルに巻き込まれたりする事もない。たしかにご説ごもっとも、よく理解はしているのだが、それが出来りゃァ苦労はないのさ

黙っている、というか多少は寡黙になることはある。食事中にペラペラしゃべるのは行儀が悪い、と言われているし、唾液も飛ぶ、場合によっては食べているものも飛散することもあったり、飛沫感染という事もあるから、決してよい事ではないのはさすがにわかる。だから多少は静かにいただく事となる。

しかし、唯一黙ることがある。
それは本当に美味いものと出会ったときだ。稼ぎが悪いから大したものを食べたことはないが、上田の松茸鍋、上越のアジフライ、富山の岩牡蠣などと出会ったときは明るく楽しくいる事すら忘れ果て、ただひたすら寡黙に喰らうこととなる。そして先だっても…。

「焼肉乃上」

南石堂町の裏手にある焼肉屋さんだ。知人からお誘いいただいてお邪魔したのだが、正直なところ食べ放題やら焼肉のさかいやらという格安店にしか行ったことのない身としては、やや敷居が高い気がしていたが、こちらがまた素晴らしかったのだ。

「タン塩(2人前)」1960円

焼肉はまず塩からセオリー、であればまずはここから始めるのがあるべき道であると断定する。『いい顔の肉』という表現と接したことがあるのだが、目の前にあるこの肉ほど『いい顔』はない。華やかで艶やかな緋色、凛として角の立つ断面、そもそもこの厚みを、ボリュームをみよ。ティッシュと見紛うばかりの肉が3〜4枚ペラペラと出てくるなどごく普通のことだ。感動を通り越して圧倒されてしまう。

よい肉に加熱は必要ない。
表裏がほんのり心地よく感じられるくらいで引き上げ、レモン果汁をほんの少しつけて口中へ。酸味、塩味そしてサクリとした歯ごたえの次に訪れる衝撃。そう、それはわが身とグルタミン酸、イノシン酸とが物理的に衝突した。かように表現されうるべき現象である。ひと口だけならまだよい、これがふた口み口となれば話をするどころか、受け止めるだけ、箸を運ぶだけで精一杯となる。これは大変だ、次はいったいどうなってしまうのだろう。

「ロース(2人前)」1960円

部位とすれば肩から腰となる。可動部だが柔らかく、さっぱりいただけるというロースは、裏を返せば少しでも火を通しすぎると硬くなる。したがってタン塩以上に気を使いながら焼くこととなる。基本的にサシは少ない部位というイメージがあるが、こちらのは細かいあみの目のようなサシが入っていて、シュワぁっという軽い爽やかな音を立てていく。肉は動かさず軽く焼き目がついたくらいで裏返し、ほんのり温まるくらいが食べごろ。

 

これはタレでいただいているが、これがまた絶品。焼肉のタレは大概甘々で調じられるし、それがよいとも感ずるのだが、こちらのほぼ生醤油に近い味わいにクラリときてしまう。もう少しゆっくり味わうなり、店の方に確認すべきだが、肉の美味さにあっという間に食べ切ってしまう。うわぁぁぁぁオレって大喰らいのバカものだァァァァァ!

「上カルビ(2人前)」2760円

息を呑み、凝視する、刮目して、呆然とする。いつも通り大げさな表現だが、それほど驚異の伴う肉肌だ。『きれいな顔』どころではない、この緋色と真白のコントラストはすでに美の領域ある。

『人の手を経て出来たものをアートとする』
と定義したのは誰であったろうか。優秀な酪農家が丹精こめて育て上げた牛を、最高の技倆でトリミング・カッティングされた肉がアートでないわけがない。

十分加熱され切った網の上に置いた刹那、ばちばちばちっという音とともに紅蓮の炎を上げる。さすがカルビだ。さながら粟津潔・山下洋輔による「ピアノ炎上」のようにもみえる。そんな事を言ってもだれも理解してくれないが。

もちろん私も生で観たことはない。それほどアヴァンギャルドな風が流れていると言いたいだけだ。そして不可思議にも美しく艶やかな肉肌を喰らい続けるのだ。

とりあえず

ここまでにしておこう。
ずいぶんと饒舌に語っているようにみえるだろうが、これはあくまでも心象風景を現したのみなのだ。実際には同行者に目もくれずひたすら寡黙に、黙々と喰らっていたのみだ。美味かった、しみじみ美味かった。次回は◯曜日に入る◯◯をいただきに上がろう。◯はあえて伏せ字にしておいた。これ以上美味いものの情報をよそ様に与えてなるものか。男は黙って…。

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